『ブラッサム』で遠藤憲一さんが演じる黒崎大三郎(くろさき・だいざぶろう)。文芸雑誌「首都公論」の編集長という肩書きから、「実在の人物がモデルなの?」と気になった方もいるのではないでしょうか。
黒崎と重なる人物として考えられるのは、「中央公論」の編集者・滝田樗陰(たきた ちょいん)です。雑誌での立場に加え、主人公のモデルである宇野千代と、レストランや原稿を通じた接点があることが手がかりになります。
ただし、今回確認した制作側の人物紹介では、黒崎のモデルを滝田と明言した記述は見つかりませんでした。ここでは、番組で公表された役柄と史実を並べ、なぜモデル候補になるのかを見ていきます。
※第23回の事前あらすじと、宇野千代の作家としての歩みに触れます。
黒崎大三郎(くろさき・だいざぶろう)は、文芸雑誌「首都公論」を率いる人物です。NHK財団のステラnetに掲載されたキャスト発表では、大胆な性格と作品を見極める力を持つ編集長として紹介されています。
遠藤憲一さんの役柄説明でも、にぎやかで豪快な外見の奥に、人の才能を見抜く力がある人物だと分かります。食べっぷりや笑い方だけではつかみきれない、仕事の目を持っているのが黒崎の特徴です。
副編集長の山中勇三(やまなか・ゆうぞう)を演じるのは井浦新さん。山中は黒崎を冷静な判断で支える立場です。二人の違いを押さえると、同じ編集部でも珠への接し方がどう変わるかに注目しやすくなります。
10月28日放送予定の第23回について、ステラnetの事前あらすじには、珠が働く西洋レストラン「悠樂軒」に黒崎と山中が訪れることが記されています。黒崎はビフテキを食べ、帰りには多額のチップを残す客として描かれる予定です。
珠は仕事や家事をしながら小説を書き続けています。生活費を得るための職場に、作品を世に送り出す側の人がやってくる。この出会いが、珠にとって文学の世界を身近に感じるきっかけになると考えられます。
滝田樗陰(たきた ちょいん)は、実在した「中央公論」の編集者です。日本近代文学館の原稿集を紹介するジャパンナレッジの解説によると、1912年に同誌の主幹となり、雑誌の発展を支えました。
主幹とは、ここでは雑誌の編集を中心になって担う立場です。黒崎の「編集長」という役職と比べる際には、呼び方だけでなく、掲載する作品や書き手を選ぶ役割に着目すると分かりやすくなります。
同資料では、滝田は原稿の評価や催促に厳しく、作家の家を人力車で回っていたと紹介されています。黒崎の人物設定と通じるのは、作家の才能を見極め、雑誌という発表の場へつなぐ立場です。
もっとも、これだけなら他の編集者にも当てはまります。モデル説を考えるうえで大切なのは、滝田と宇野千代の具体的なつながりです。
日本近代史研究者の刑部芳則さんによる『婦人公論.jp』の解説では、室生犀星の回想をもとに、滝田が本郷の洋食店「燕楽軒」で働いていた宇野千代に、小説を書く力がありそうだと関心を持っていたことが紹介されています。
珠が悠樂軒で働き、黒崎と出会う設定を考えると、店名の響き以上に、この書き手を目指す女性と編集者が飲食店で接点を持つ構図が重なります。
ただし、黒崎のビフテキやチップの描写まで、そのまま滝田の実話だと確認できたわけではありません。人物のモデルを考える手がかりと、場面ごとの史実性は分けて見る必要があります。
二人の関係は、回想だけで伝わっているものではありません。日本近代文学館の「宇野千代展―100年の旅人―」の紹介には、滝田樗陰コレクションに含まれる「墓を発く」などの原稿や、滝田宛ての書簡を展示するとあります。
また、『婦人公論.jp』の解説では、宇野千代の「墓を発く」が「中央公論」に掲載された経緯を取り上げています。そこには原稿に残る書き込みなどを手がかりに、掲載前にも編集上のやり取りがあったと考えられる、という分析が示されています。
こうした資料から見えてくるのは、店で知り合っただけの関係ではなく、作品を届け、読まれ、発表へ進む関係です。黒崎が珠の物語で担う役割を考える際にも、単なる有名な常連客という見方から一歩踏み込めます。
「首都公論」の背景を考える際にも、「中央公論」は有力な比較対象です。ただ、名前が似ていることだけで結び付けるより、雑誌・編集者・書き手の関係を並べる方が、モデル説の根拠がはっきりします。
| 比較する点 | ドラマの設定 | 資料で確認できる史実 |
|---|---|---|
| 雑誌と編集者 | 黒崎が「首都公論」の編集長を務める | 滝田が「中央公論」の主幹を務めた |
| 飲食店での接点 | 珠の働く悠樂軒に黒崎が訪れる予定 | 燕楽軒の宇野千代に滝田が関心を寄せた回想がある |
| 書き手との関係 | 珠は小説を書き、黒崎は才能を見抜く人物として紹介される | 宇野千代の原稿や滝田宛て書簡が残る |
この対応から、本記事では黒崎のモデル候補として滝田を挙げています。比較表は制作側の公式な対応表ではなく、確認した資料からの考察です。
『ブラッサム』は宇野千代の生き方をもとに再構成された物語です。複数の人物の特徴や創作上の設定を組み合わせている可能性もあるため、滝田の生涯を調べれば黒崎の今後がすべて分かる、という読み方には幅を持たせたいところです。
今後の見どころとして考えられるのは、黒崎が珠のどんな文章に反応するのか、という点です。
才能を見抜く編集長という設定なら、ただ珠を励ますだけでなく、作品のどこがよいのか、何が足りないのかを示す場面が人物像を深めるはずです。豪快な客としての顔と、原稿を読むときの顔。その違いが描かれれば、遠藤憲一さんの黒崎をより立体的に楽しめそうです。
史実の原稿や書簡も、作家の出発には「書くこと」とともに「読んでくれる相手へ届けること」があったと教えてくれます。珠にとって黒崎との出会いがどんな意味を持つのかは、これからの二人のやり取りで確かめたいところです。
『ブラッサム』の黒崎大三郎は、遠藤憲一さんが演じる「首都公論」の編集長です。モデル候補として滝田樗陰が考えられるのは、雑誌での立場に加え、宇野千代とのレストランでの接点や、原稿・書簡を通じた関係が重なるためです。
現時点では、黒崎のモデルが滝田と公式に確定したとは扱わず、史実との共通点から考えられる人物として捉えるのが適切です。豪快な振る舞いの奥で、珠の書くものをどう見つめるのかに注目したいですね。
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