『ブラッサム』第27回で、葉野珠(はの・たま)が「悠樂軒(ゆうらくけん)」の仕事を辞めると伝えます。文芸の世界との接点が生まれた場所を、なぜ離れるのでしょうか。
直接の理由は、赤ん坊の出産に備えるためです。珠と木村保は、保の大学卒業後に札幌で暮らすことも決めていました。家族のこれからを考えた選択ですが、珠には文芸から離れる寂しさも残ります。
そして第27回では、その準備を進める珠と保に、早産によって赤ん坊を亡くす悲しい出来事が訪れました。退職を決めた理由と、その後に起きたことを順に整理すると、珠の決断が持つ意味が見えてきます。
※第27回のネタバレを含みます。退職の経緯はNHK財団の公開資料、その後の展開は本ブログ運営者によるBS放送の視聴報告を基にしています。
NHK財団のステラnetが公開した第27回の紹介では、珠が出産に備えて店を辞める意向を伝えることが示されています。珠と保は、保の卒業後に生活の拠点を札幌へ移す予定です。
ここで分けて考えたいのが、仕事を辞める理由と、札幌へ向かう予定です。出産への備えは目の前の生活の問題で、札幌での暮らしは保の卒業後を見据えた計画。二つはつながっていますが、店を辞める話と引っ越しが、まったく同じ時点の出来事とは限りません。
珠はこれから生まれてくる子と、保との暮らしに向き合おうとしています。退職を考えた時点では、家族が増える未来へ向けた準備だったことが大切です。
放送後に結末を知ると、珠が悲しみのために店を去るように受け取ってしまうかもしれません。しかし、今回の流れでは、出産に備えて退職を伝えた後に、赤ん坊との別れが訪れます。
この順番によって、同じ「店を離れる」という出来事の受け止め方も変わります。珠が思い描いていたこれからの生活と、実際に起きた出来事の間に、大きな隔たりが生まれたのです。
珠が退職を知らせる相手は、店の人だけではありません。第27回の公開資料には、「首都公論」編集部の黒崎や山中、作家の秋山格之介といった常連客にも伝えることが記されています。
珠を演じるのは石橋静河さん。黒崎役は遠藤憲一さん、山中役は井浦新さん、秋山格之介役は高良健吾さんです。彼らとの接点がある悠樂軒は、珠にとって働く場所であると同時に、文芸の世界を身近に感じられる場所でもありました。
ここからは、珠の気持ちについての考察です。仕事を辞めると、収入や日々の習慣だけでなく、そこで自然に生まれていた会話や出会いも変わります。珠が惜しんでいるのは、そうした人たちと同じ場所にいられる時間でもあるのではないでしょうか。
新しい家族を迎えたい気持ちがあっても、心を引かれる世界を離れるのは寂しいものです。珠の寂しさを、出産を喜んでいない証拠と受け取る必要はありません。
むしろ、生活のために選んだ道とは別に、文芸への関心が消えていないことが読み取れます。自分が選んだことでも、失うものへの心残りは生まれる。その揺れが、珠の決断を単純な区切りにしていないと考えられます。
「未練」という言葉も、決断への後悔とだけ捉えると狭くなります。ここでは、まだ離れがたい思い、手放しきれない関心として考えると、珠の心情を理解しやすくなります。
放送前の紹介で「異変」とされていたのは、珠が早産し、赤ん坊を亡くしてしまう展開でした。これは、本ブログ運営者が第27回のBS放送で確認した内容です。
出産に向けて仕事を辞めると伝えていた珠にとって、それは準備の先に思い描いていた未来が変わってしまう出来事です。保を演じる金子大地さんと石橋静河さんが担う二人の物語も、家族が増えることを前提とした計画だけでは語れなくなりました。
ただ、退職や文芸への寂しさが早産を引き起こした、という因果関係を示す材料はありません。出来事が続けて描かれたことと、原因であることは別です。珠の行動や気持ちに赤ん坊を亡くした責任を結び付ける読み方は避けたいところです。
また、この別れをすぐに「作家になるために必要な経験」とまとめるのも、珠が失ったものを小さく扱ってしまいます。まずは、望んでいた赤ん坊との時間を失った出来事として受け止め、その後に珠と保がどう暮らしていくのかを見ていきたい場面です。
珠のモデルは作家の宇野千代です。文京区の人物紹介では、宇野千代が東京で藤村忠と同居し、本郷のレストラン「燕楽軒」で働く中で文人たちと知り合った経歴が紹介されています。働く店が文芸との接点になった点は、珠の物語と重ねて考えられる部分です。
一方、今回確認できた公的な人物紹介だけでは、出産や子との死別の詳しい経過までは確認できませんでした。第27回の早産、赤ん坊との別れ、退職の順番がすべて史実と同じかどうかは未確認です。
宇野千代の体験を背景にした物語であっても、登場人物の会話や出来事の配置にはドラマとしての構成があります。史実との共通点を知ることと、珠の出来事を一つずつ実話と断定することは分けて考えたいところです。
珠が悠樂軒を辞める理由は、出産に備えるためです。保との札幌での生活も見据える一方、文芸の人たちに接する場所から離れる寂しさが残っていました。
その後、第27回では早産と赤ん坊との別れが描かれます。退職の決断が先にあったことを押さえると、珠が準備していた未来と、突然訪れた現実の違いが伝わってきます。
悠樂軒を離れることは、珠の文芸への思いまで消えたことを意味しません。暮らしが大きく変わる中で、その思いがどのように続いていくのかも、これから見守りたい点です。
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