『VIVANT』第20話で、乃木の別人格・Fの指示を受けた太田梨歩が、鮮やかに無力化したHQ-9。聞き慣れない名前ですが、あの短いやり取りには、救出した仲間の帰還に関わる意味がありました。
HQ-9は、実在する地対空ミサイルの防空システムです。第18話で示された空路による脱出計画を踏まえると、敵に使わせないようにするのは、脱出用の航空機を守るための備えだったと読み取れます。
城から仲間を連れ出したあとも、任務は続く。太田が支えたのは、その先の帰り道でした。
※第20話までのネタバレを含みます。場面の細部は本ブログ筆者の視聴メモをもとに、放送後の報道と照合しています。登場人物の心理や演出の意味は、本文で示す独自考察です。
▼CSIS・AMTI:HQ-9配備と防空上の役割に関する分析(2016年2月18日)
地対空ミサイルとは、地上から発射して、飛行する航空機などを迎撃するためのミサイルです。HQ-9は中国の防空装備で、米シンクタンクCSISの分析でも、航空機に対処するシステムとして説明されています。
兵器に詳しくなくても、この場面では「飛行機で逃げようとする仲間にとって、地上に残る脅威」と考えれば、その役割がつかめます。
名前の数字からミサイルの数を読み取る必要はありません。また、劇中で二つ確認されたことと、ミサイルが2発だけあることは別です。本記事では弾数や装置の細かな構成まで決めつけず、HQ-9の無力化として扱います。
射程などの数値も、実在する装備の説明をそのまま劇中へ持ち込むと、作戦の距離感を誤って理解する原因になります。ここで大切なのは性能の暗記より、空を使う脱出には、地上の防空兵器への対処も必要だったという点です。
この指示は、第20話で突然思いついた対策ではありません。
デイリースポーツの第18話・第20話解説によると、第18話の作戦会議では、別班員を奪還したあと、プライベートジェットで国外へ脱出する計画が説明されていました。その場でゲルンがHQ-9の配備を質問し、乃木は保有が判明した場合に無力化する方針を示していたといいます。
つまり第18話の段階では、敵が持っているか分からない危険として検討していたものを、第20話で確認し、対処したというつながりです。
ここからは作戦の意味についての考察です。牢から仲間を助け出すことと、その仲間を安全な場所まで帰すことでは、解決しなければならない問題が違います。城内の敵をかわしても、飛行機に乗った先で狙われる可能性が残れば、帰還への不安は消えません。
Fの指示は、目の前の戦闘だけでなく、その先の脱出を見据えたものと読めます。太田は遠隔で作戦を支えながら、仲間がこれから通る道の危険を一つ減らしたのです。
なお、HQ-9が発射直前だった、すでに脱出用航空機を捕捉していたという描写までは、今回の資料で確認できていません。あくまで、脱出を脅かし得る装備に先手を打った場面として捉えています。
▼乃木(F)と太田の見事な神速の連携プレイ
(1)乃木(F)からシンシー本部システムへの侵入の命令を受けた太田は「まもなく」と答える
(2)侵入を果たした太田に対し乃木(F)はHQ-9が存在しているか調べ、あれば潰せと命令する
(3)HQ-9は2基ある、潰しますと答える太田
(4)パソコンキーボードを真剣に高速にうつ太田のかわいい眼差し
(5)潰しましたと即答する太田、となりにいる東条はただただ唖然とするしかなかった
筆者の視聴メモに沿って、場面の順序を整理すると次のようになります。台詞は逐語引用ではなく、内容の要約です。
この流れで注目したいのは、侵入できたところが終点ではないことです。敵のシステムへ入る技術と、その中で必要な対象を見つけ、作戦に役立つ結果につなげる働きが、ひと続きで描かれています。
完了報告のあっけないほどの短さに、むしろ頼もしさを感じます。ただし、ここでの「無力化」は、敵が使えないようにしたという物語上の結果を表す言葉です。装置を物理的に爆破したのか、どこまで復旧不能にしたのかといった仕組みは、確認できる範囲を超えて補いません。
シネマトゥデイの第20話記事でも、黒須の無事を知った太田の笑顔や、その後のハッキングでの活躍が紹介されています。
筆者の感想をひと言で表すなら、「恋する相手がいる太田は無敵だった」です。
もちろん、これは場面から受けた印象です。太田にはもともと、ブルーウォーカーとしての卓越した技術があります。恋をしたから突然できるようになった、と考えるより、積み重ねてきた力に、大切な相手を助けたい気持ちが重なった場面として見るほうが、彼女の魅力が伝わります。
黒須が生きていると知る喜びと、まだ任務が終わっていない緊張。その両方があるから、真剣に画面へ向かう姿にも温度が生まれるのでしょう。
太田の気持ちを動かしたのが黒須だとしても、HQ-9への対処が支えるのは、脱出を目指す仲間たちの安全です。一人を助けたい思いが、仲間全体の帰還を支える働きにつながる。この広がりに、今回の場面の面白さがあります。
筆者には、隣の東条が唖然としているように見えました。これは表情の受け止め方であり、本人の内心まで分かるわけではありません。
それでも演出として考えると、太田のそばに仕事ぶりを見ている人物がいることで、画面の向こうの視聴者も、その鮮やかさを受け取りやすくなります。専門知識がなくても、周囲の反応が驚きの大きさを伝えてくれるわけです。
東条の能力を低く見る場面(※)というより、この瞬間の太田に光を当てる対比と捉えたいところです。また、仕事の速さは、恋心だけでなく、緊迫した任務に集中する専門家の姿としても読むことができます。技術と感情、そのどちらもあるから太田は印象に残ります。
※東条もまた公安に協力しているサイバー犯罪対策課の凄腕ハッカーです。
HQ-9が実在することは確認できますが、劇中と同じ方法・短さで無力化できるかは確認できません。
今回参照したCSISの資料は、実在する防空装備とその配備を論じたものです。ドラマのように本部のシステムへ侵入すれば操作できるのか、どんな弱点があるのかを裏付ける資料ではありません。
物語としては、技術的な過程を短くまとめることで、太田の腕前と作戦の勢いを際立たせた演出とも読めます。現実の仕組みを説明する場面としてではなく、事前に示した難題を太田が引き受ける場面として見ると、短いやり取りの意味がはっきりします。
『VIVANT』のHQ-9は、空路で脱出する仲間を脅かし得る地対空ミサイルの防空システムです。第18話で検討された懸念に、第20話で太田が対処するという流れがありました。
無力化によって脱出のすべてが解決したわけではありません。それでも、救出した仲間を帰すための重要な備えを、太田が担ったと考えられます。
恋する太田の頼もしさは、黒須を思う表情だけにあるのではないでしょう。その気持ちを胸に、自分の技術で帰り道を支える。HQ-9の意味が分かると、パソコンに向かう彼女の姿が、もう一段頼もしく見えてきます。
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